親鸞聖人「浄土真宗の開祖は私ではない」――衝撃告白の真意とは？浄土宗との本当の関係

浄土真宗の開祖は親鸞にあらず？本人が語った衝撃の言葉

「浄土真宗を開かれたのは、親鸞聖人」
これは、歴史の授業などでも習う、多くの人が知る「常識」ではないでしょうか。

しかし、当の親鸞聖人ご自身が、この常識を覆すような言葉を残されていることをご存じでしょうか。

親鸞聖人が、尊敬する七人の高僧の教えを和歌の形で讃えられた『高僧和讃』には、こう記されています。

智慧光のちからより 本師源空あらわれて 浄土真宗をひらきつつ 選択本願のべたまう

「本師源空」とは、親鸞聖人の生涯ただ一人の師であり、七高僧のお一人にもあげておられる、法然上人のことです。 ここにハッキリと、「わが師・法然上人が現れて、浄土真宗を開かれた」と書かれているのです。

さらに、浄土真宗の教えの根幹を記された『正信偈』にも、同様の言葉があります。

本師源空仏教を明かし、 善悪の凡夫人を憐愍し、 真宗の教証を片州（日本）に興して 選択本願を悪世に弘めたまう

ここでも、「浄土真宗の教えとその救いを、この日本に打ち立ててくださったのは法然上人である」と、宣言されています。

親鸞聖人ご自身は、生涯「浄土真宗の開祖は、師である法然上人である」と言い続けらていたのです。

しかし、なぜ私たちは「浄土宗」と「浄土真宗」という、二つの異なる名前で呼んでいるのでしょうか。

しかし、なぜ教えの言葉は違うのか？「念仏為本」と「信心為本」の謎

それは、一見すると、法然上人と親鸞聖人の教えは違って見えるためです。

• 法然上人は「念仏」が最も大事だと言われ、念仏を大変前面に出され、強調された方です。これを念仏為本（ねんぶついほん）といいます。
• 親鸞聖人は「信心」こそが最も大事だと言われています。これを、信心為本（しんじんいほん）といいます。

このように聞くと、同じ教えのように思えませんね。

「信じることと、念仏を称えることは別でしょ」
「信じているから念仏を称えているのだから、信心は当然、すでに自分の中にある」
「その上で、念仏称えなかったらダメだろう。信じても行じなかったらダメだろう」

このように思うかもしれません。

しかし、これらは皆、法然上人が仰る「念仏」を誤解している姿に他なりません。

法然上人が説かれた「念仏」の、本当の意味

「称えれば救われる」ではなかった？自力の念仏と他力の念仏

法然上人が「念仏を本と為す」と言われているのは、ただ口で「南無阿弥陀仏」と称えさえすればよいと言われているのではありません。

実は、同じ「南無阿弥陀仏」と称える念仏でも、自力の念仏と、他力の念仏とがあるのです。

法然上人が仰る念仏というのは、信心頂いたうえの「他力の念仏」のことなのです。

法然上人も「信心をもって浄土へ往ける」と教えていた

その証拠に、法然上人の主著である『選択本願念仏集』には、こうハッキリと記されています。

当に知るべし、生死の家には、疑いを以て所止とし、涅槃の城には、信を以て能入と為す。

非常に重要な一文です。分かりやすく言えば、こうなります。

「よく知りなさい。私たちが迷いの世界（生死の家）に留まっているのは、阿弥陀仏の本願に対する『疑い』が原因である。そして、阿弥陀仏の極楽浄土（涅槃の城）へ入れるかどうかは、『信心』によってのみ決まるのだ」

つまり、法然上人ご自身が、「信心をもって浄土へ往ける」と、明確に教えておられたのです。

なぜ師の「真意」は、弟子たちに誤解されてしまったのか

ではなぜ、「信心が大事だ」という法然上人の真意が、正しく伝わらなかったのでしょうか。

それは、法然上人が、当時の仏教界に応じた教え方をなされたからでしょう。 当時は「厳しい修行や、座禅・瞑想など多くの善い行いを積むことによって、自力でさとりを目指す」という考えが常識でした。

そんな中だったからこそ、法然上人は「どんな善もできない者でも、ただ念仏一行で救われる」と教えられました。これを行々相対（ぎょうぎょうそうたい）といいます。 様々な行と念仏という行を比較相対し、本当の救いは念仏一行だと明らかにされたのです。

しかし、多くのお弟子たちは、 念仏に自力と他力がハッキリ分かれるということが本当には分からなかったのです。

「念仏で助かるんだ、念仏という行で助かるんだ」。 そうとしか思えなかったのです。

それでみんな一生懸命、念仏は称えた。 ところがほとんどそれは自力の念仏だったのです。

親鸞聖人の決断――他力の念仏から信心を抜き出された「唯信別開の絶対門」

師である法然上人のご教導が、全く違う形で伝わっていく。その状況に、親鸞聖人は誰よりも心を痛められました。

そこで親鸞聖人は、「法然上人が仰る念仏というのは信心頂いたうえの他力の念仏のこと。本当は信心一つで助かるんだ。そこを聞き分けなさい」ということで、 あえてその他力の念仏から信心を抜き出されたんです。

ただ信心を別に開かれた。これを唯信別開といいます。 他に比べるものはありませんから、唯信別開の絶対門といいます。

信心一つを抜き出された。これが「信心為本」と呼ばれる理由です。しかし、法然上人の「念仏為本」と心は一緒なのです。

難しいところなので、例えで説明しましょう。

【たとえ話】「財布」と「現金」でスッキリわかる、「念仏為本」と「信心為本」の関係

ある日、お母さんが子供に買い物を頼むとします。

「マーケットに行って、これを買ってきてね。この財布を渡すからね」

素直な子供は「はーい、分かったよ！」と元気よく返事をし、お母さんから財布を預かってスーパーへ向かいます。お母さんに喜んでもらおうと、頼まれた品物をすべてカゴに入れ、意気揚々とレジに並びました。

ところが、いざ支払いをしようと財布を開けてみると、何とお金が入っていません。空っぽの財布です。これでは、せっかく選んだ品物を買うことはできません。「お母さん、財布はくれたけど、これじゃ買えないよ…」。

・・・・・・

この経験に懲りたお母さんは、次の機会にはこうしました。財布からお金を抜き出して、子供に直接手渡したのです。これだと、もう間違いありません。

「今度はこれで買ってきなさい」

お金をしっかりと握りしめた子供は、無事に買い物を済ませることができました。

この話の「財布」が念仏、「お金」が信心だと考えてください。

法然上人が「念仏為本」と教えられたのは、例えるなら「財布が本である」ということです。もちろん、この財布は「お金の入っていない空財布」ではありません。

法然上人が教えられた念仏とは、「信心の抜けた空念仏」ではなく、「他力の念仏」、「信具足の念仏」なのです。

しかし、この教えは表面だけを捉えると、「ただ念仏を一生懸命に称えていれば極楽へ往けるのだ」と誤解されがちです。それは、お金の入っていない空の財布を握りしめて満足してしまうようなものです。

そこで親鸞聖人は、その誤解が生じないよう、より明確に教えられました。

「称える念仏そのもので浄土へ往けるのではない。阿弥陀仏から賜る信心という『お金』一つで往けるのだ。財布ではなく、その中身であるお金こそが本質ですよ」

このように、親鸞聖人は、誰もが往生できるただ一つの道を、信心を抜き出して示してくださいました。それは、法然上人が本当に伝えたかったことを、より鮮明にされたことに他なりません。

まとめ： 親鸞聖人と法然上人の教え

この記事の冒頭の謎に戻りましょう。 なぜ親鸞聖人は「浄土真宗の開祖は法然上人だ」と言われたのか。

それは、お世辞でも謙遜でもなく、紛れもない事実だったからです。 阿弥陀仏の救いの核心が「信心」にあることを、もとより法然上人が明らかにされていたからです。

法然上人が今日の浄土宗をごらんになられたら、 「いやワシはこんなことは教えてないよ。ワシの心を本当に伝えてくれてるのは親鸞だ」 とこう仰ると思いますね。

そういう意味で、法然上人と親鸞聖人の教えは一つです、心は同じです。だが、教えられ方が違うということであります。

とはいえ、「念仏為本」からさらに信心をえぐり出し、「信心為本」と教えてくだされた親鸞聖人の偉大さを思いますと、 私たちとしては、やはり浄土真宗を開かれたのは親鸞聖人だと仰がずにおれません。

難しい言葉もたくさんありましたので、正しくお伝えできたか心もとないんですけれども、もし分かりにくいところがありましたら、 また動画で繰り返し聞いていただければと思います。